NFR98 検討研究会 ニュースレター No. 7

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              NFR98検討研究会 ニュースレター  No.7
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                         発行:2002年9月6日
                         編集:稲葉昭英・西野理子
 
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 目次
   1.第7回研究会報告
   2.NFR98検討研究会最終報告
   3.事務局からのお知らせ
   4.今後について
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   1.第7回研究会報告
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 2002年8月31日(土)午後1時より、慶應義塾大学三田キャンパスにおいて第7回研
究会が開催されました。
 出席者は以下の20名の方々です(敬称略):
石原邦雄(東京都立大)、稲葉昭英(東京都立大)、大久保孝治(早稲田大)、
大友由紀子(十文字女子大)、加藤彰彦(帝京大)、神原文子(神戸学院大)、
澤口恵一(大正大)、嶋崎尚子(早稲田大)、末盛慶(東京都立大)、
田中慶子(東京都立大)、田中重人(東北大)、田渕六郎(名古屋大)、
永井暁子(家計経済研究所)、中西泰子(東京都立大)、西野理子(東洋大)、
野沢慎司(明治学院大)、藤見純子(大正大)、大和礼子(関西大)、
脇坂真理子(東京都立大)、渡辺秀樹(慶応大)
 
  当日は、暑い中お集まりいただき、ありがとうございました。
稲葉・西野の両世話人より、これまでの報告および議論のまとめを報告し、
全員からコメントをいただきました。
  当日の議論をふまえて、これまでの成果をまとめた最終的な報告書を次のように作
成し、NFR03実行委員会委員長に提出しました。これで、当研究会の活動は終わり
ます。これまで半年あまりにわたって研究会を定期的に開催し、このような最終報告
をまとめることができましたのも、会員の皆様のご協力の賜です。報告を快く引き受
けてくださった方、毎回のようにご出席いただいた方、貴重なコメントをいただいた
方・・・皆様、ありがとうございました。
  研究会としての活動はいったん終わりますが、NFR03の実施に向けた活動がいよ
いよ本格的に始まります。本ニュースの最後に紹介しておりますが、今月23日にはサ
ンプリングに関する勉強会が開催されます。また、本年の日本家族社会学会大会では、
この研究会の成果をふまえたテーマセッションも設けられています。
  今後とも是非ご一緒させていただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
 
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   2.NFR98検討研究会最終報告
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以下は、当研究会の活動の成果をまとめてNFR03実行委員会委員長にあてた最終報
告書です(ワード文書のため、書式などは若干異なります)。
 
NFR03実行委員長殿 
                                                          2002年9月5日
                                 NFR98検討研究会世話人 稲葉昭英・西野理子
  
NFR98検討研究会で行われたNFR98調査票に対する問題点の検討結果について、最終報
告を以下に提出いたします。
 
 
NFR98検討研究会最終報告
――NFR98検討研究会における成果のまとめ――
 
A.各質問項目に対する検討結果概要
 
Q3 出身地域の特性:利用率低い
 
Q4 本人学歴:教育年数を算出できる形式の方が良い
 
Q7 「親元」、「離れる」の定義の明確化
(進学・就職・結婚・兵役に限定する、などの操作化の必要)
→ 疎開、他家への養子、などは離家?
→「親元」は同居?近居も含む?
Q7 初離家年月→ 月無回答数が多い(月は満年齢換算時に利用されているが)
Q7 初離家年月→ 年齢/元号形式の併用法の再検討、エディティング方法の改善の可能性
 
Q7 初就職時期 → 月無回答数が多い(月は満年齢換算時に利用されているが)
Q7 初就職年月→ 年齢/元号形式の併用法の再検討、エディティング方法の改善の可能性
 
Q10 本人年収→年収のカテゴリーをもう少し細かくとっても良い。100万円単位など。
 
Q11・12  居住関係 ○
・世帯員単位の集計が不可能
・親子の居住関係を分析する際、単身者や未婚者の割合が低いサンプリングの偏りに留意
すべき
・子どもとの居住関係を分析する際、死別離別経験者が少ないというサンプリングの偏り
に留意すべき
 
Q13  世帯主
・世帯主の人口学的属性が特定できない
* 簡単な世帯表ないしは家族表の導入可能性
 
Q15 世帯年収をもう少し細かく設定しても良い
 
Q16 配偶者との別居(単身赴任など) を測定することはできないか?
Q16SQ2 夫婦の苗字→必要か?
Q16sq9/10  労働日数・労働時間○
Q16SQ14 伴侶性(配偶者との同伴行動)△
(ア) 夕食 → 分散が小さい、伴侶性?△
(イ) 買い物・ショッピング△ 回答カテゴリーの問題
・ 伴侶性は夫婦の親密性などと独立か?
→ 夫婦単位での行動をきくか、レジャーなどの頻度をきくか
 
Q16sq15  家事・育児
・家事・育児各項目の遂行頻度○ → 家事時間をたずねる方法について、国際比較
可能性などを踏まえて予備調査などで可能性を考えても良いのでは
・家事概念の変化をふまえて、家事の項目を検討する必要も
・週当たり頻度が高い項目として「食事の用意」、低いこともある項目として「洗濯」
「風呂掃除」が用意されているが、両者の項目数をそれぞれ複数にしてもよいのでは
・「子どもや孫の世話」項目を削除するか、内容を分割して設定する
・「家族や親族の看病・介護」頻度は、該当者がきわめて少なく、削除も
 
Q16sq16 夫婦間の情緒的サポート○
Q16sq17 夫婦の勢力関係 ×?→ 使用頻度が低く妥当性も疑問、必要か?
Q16sq18 結婚満足度 → 子・親・義親は関係評価(=良好度)で不整合
 
Q16sq19 家族認知 → 要概念検討。予備調査で方法論を検討する必要があるのでは 
 * 他の家族認知も同様
 
Q17sq1 離死別者の初婚年月 → 離別経験者に初婚無回答が多い
→ 年齢/元号形式の併用法の再検討、エディティング方法の改善の可能性
q17sq2 *配偶者の離死別経験も項目として起こす?
*離死別年
 
Q18結婚による職業の変化 論理エラー多く、修正必要
 
Q19 出産による職業の変化 論理エラー多く、子育て期の仕事の有無をあらかじめ確認
するなどの形式に修正必要。
 
Q20家族意識項目
伝統性(家・集合体志向・性別分業)⇔脱伝統性(個人志向・脱性別分業)
(ア)(オ)(カ)○
(イ) 愛なし夫婦の離婚   △      要検討
(ウ) 婚前性関係の許容度  △家族意識? 要検討
 (エ) 子どものために親犠牲 △      要検討
・ 項目数を増やすか?
・ 「先祖祭祀」項目が必要?
・ 「中期親子関係についての意識」が必要?
・ 「家族についての多様性の許容度」が必要?(未婚、子どもなし家族など)
 
q21 役割ストレーン ○
(オ)家庭内での自分の負担→特定化するか?「家事・育児・介護などの負担…」
(ア)(イ)q29トラブルやもめごとの有無との重複
 
q23 ディストレス(CESD)
・項目については他のCESDのバージョンも含めて検討が必要
 
Q24 子どもについての情報
・sq1とsq5の接合がむずかしい。
→ sq1できくような死亡した子どもについての情報はもっと簡略化する?
(第1子が死亡している場合についてのみなど)sq5に出生年などを組み込むデザインへ
 
q24sq3  最初の子の結婚時期 → 不明が多く、使用頻度も低い。改良するか、
優先順位を低くする。
 
Q24sq5(キ) 子どもとの関係評価
→他の尺度(親密性尺度=7項目)を導入するなど、関係性評価に改訂の余地あり  
 * 親との関係など、すべての関係性評価において同様
 
Q24sq6子どもとの共同行動
・回答選択肢の問題(少ない頻度を細かく…)
・子どもにかかわる項目が比較的少ない
・特定の子(含:焦点子)に対するものとするか
 
q25 父母情報
・父母の出生・死亡 → 不明が多く、使用頻度も低い。改良するか、優先順位を低くする
→ 年齢/元号形式の併用法の再検討、エディティング方法の改善の可能性
・親の婚姻上の地位についての情報もあっていいのでは
 
q26 きょうだい情報
・本人の出生順位を確定できる情報を設ける→JGSS方式
・出生 → 不明が多く、使用頻度も低い。改良するか、優先順位を低くする
→ 年齢/元号形式の併用法の再検討、エディティング方法の改善の可能性
・sq2に学歴をいれる?
・配偶者のきょうだい情報もほしいという声もあり
・きょうだいとの同別居だけでなく、親と同じように居所間距離の情報もほしいという
声もあり
 
q28・q29 援助相互作用/トラブルやもめごとの有無
・回答されている内容がどの関係についてのことなのか、特定できるような形式に
なおす必要あり。
・現状の回答選択肢も自記式では非常に回答しにくい。
→ 関係のマトリックス形式を検討
 
q29 (イ)18歳以上というカテゴリーの限定にあまり意味がないのでは?
 
q30 個人的ネットワーク
・教示と設問のワ-ディングが不整合。
・少なくとも親・兄弟姉妹は、カテゴリーを分離する必要
・代替案として出されているパーソナルネットワーク型質問項目(野沢報告の提案;
密度も含める)については、予備調査で可能性を検討することが必要。ただし、
この形式の場合には関係の機能的内容については限定されたものになる。
 また、この形式にした場合にはq28・q29との重複などを調整する必要がある。
 
Q31 親族関係の分布
・配偶者と死別した場合はどう回答するのか?
・配偶者の兄弟姉妹に配偶者が含まれている可能性(指示が必要)
・認知がカテゴリー別
 
Q32SQ4/Q33SQ4/Q34SQ4/Q35SQ4など:同別居歴
 論理エラー頻出、再検討(介護・看病の期間中の変化に限定することの必要性)
 
Q32以降
・98調査の経緯からいって03調査では前面削除も考えられるが、将来を展望して
簡略化して含める案も
 
その他
・家族全体についての評価がほしいとの声あり
 
 
B.全体を通じた質問項目の問題点
 
1 関係カテゴリーごとにその機能的内容を評定させる方法(関係先行法)と、
特定の機能的内容をもつ個人(の関係カテゴリー)自体を記述させる方法(機能
先行法)の差異
  Q30 ⇔ 「あなたが寝たきりなどで介護を必要とするようになったとき頼り
にするのはどなたですか」
NFR式家族認知 ⇔  「あなたの現在の家族の方はどなたですか」
→ これらの差異が何を意味するのか、予備調査などで差異の程度、意味を理解
する必要あり
 
2 関係カテゴリー(set)に関する測定か、関係カテゴリー中の特定の個人
(individual)に関する測定か
     q24sq6 ⇔ 焦点子(focal child)
     q28,q29 ⇔  
 
3 世帯情報の不足 ⇔ 世帯表、世帯主・世帯員の属性、家族全体を評価する
項目の不足
 
4 多くの対象者が回答可能な項目にするか⇔特定のステージの対象者が回答可能
な項目にするか
 育児,伴侶性・同伴行動 ⇔ 調査票の複数化、スキップ
 
5 概念との対応:関係の良好度、家族認知
         
 
1,2 → 関係中心主義をとるか、個人中心主義をとるか
1,2,3,4 → 面接法(留置+面接)でないと難しいのでは
 
 
C.調査デザイン全体にわたる問題(研究会の議論の中での意見)
 
今後の検討にあたって
・他調査で代替可能な項目は優先順位を低く、という原則は維持すべき
・他調査との比較可能性、とりわけ国際比較の可能性を考慮する余地あり
・今後の動向をとらえられるような視野をもつべき(「普通の家族」という特定の
家族イメージに拘泥しない)だが、全国規模の量的調査にみあう項目設定を行うべき
であって、特定の限定された対象に関する仮説や傾向の確認のための項目設定には
限界があることは認識すべき。
・学会員による評価、学会員のニーズを探ることもどこかで必要かもしれない
 
デザインにかかわる論点
・調査間隔(5年幅の趨勢調査か10年幅の趨勢調査か)
・限定された年齢層からデータをとるか、広い年齢層からデータをとるか
・もっと若年層からデータをとってほしいという希望もあり
・ライフステージごとに調査票を変える?
・面接法の可能性
・データハンドリングを良くするという点は考えていく必要あり
 
その他
・調査員への指示、エディティグが地域的な差異を示さないように統一的な指示が
必要
・倫理チェックの方法……プライバシーについてはNFR委員会で検討する。倫理
チェックを慶応大学の専門委員会あるいは日本社会学会やSSJの倫理規定に沿って
受ける必要がないのか
・データ公開のインフォームド・コンセンサスのあり方
・自己点検のため、外部評価を受けた方がいいとの意見もあり
 
いくつかの結論
・NFR98のデザインを仮に維持するにせよ、質問項目をそのまま次回調査で使うの
は信頼性、妥当性などの側面から大きな問題がある。少なくとも項目のいくつかは
差し替えたほうが良い。また、項目を改変するに当たっては既存の項目をより有効
に使う意味でも新規の変数を組み込むことも考えられる。
 
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   3.事務局からのお知らせ
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1.上記の最終報告書を添付フィルにてご希望の方は、事務局の西野
mnishino@toyonet.toyo.ac.jp
までお知らせください。ワード文書にておおくりすることができます。
 
2.サンプリングについての研究会のお知らせ
 統計数理研究所からサンプリングの専門家である馬場康維教授をお招きして、サン
プリングの方法などに関する研究会を下記のように設定いたしました.この研究会
は、NFR03実行委員のほか、NFR98検討研究会委員その他に多くの方の参加を歓迎いた
します.もちろん参加は無料です.ふるってご参加ください。
 また準備の都合上、参加ご希望の方は下記の稲葉世話人まで連絡いただければ幸いです.
 
1. 講演日  2002年9月23日(月)祝日、学会大会の翌日です.
2. 時間   午前10時~12時
3. 会場   慶應義塾大学三田キャンパス 大学院棟313教室(三田キャンパス中
心部近くの白いビル)
4. 研究会名 NFR03実行委員会研究会
5. 講演内容 NFR調査におけるサンプリング
 
連絡先:〒192-0397
 八王子市南大沢1-1 東京都立大学人文学部 稲葉昭英
 :0426-77-2126 Fax:0426-77-2124
  e-mail:inapa@bcomp.metro-u.ac.jp
 
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   4.今後について
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NFR98検討研究会(98研)の今後について
 
 冒頭にお伝えしたように、とりあえずNFR98調査票を再検討するという本研究会の
設立時の目標は終了しました。これによってこの研究会の活動は一応終わることにな
ります。
98研の毎回の報告は報告者の入念な準備のもと、きわめて高い水準の報告が頻出し、
多くの参加者より高い評価を得ることができました。家族の計量・測定に関しては
もっとも水準の高い研究会であったと言えるのではないでしょうか。報告者でもっと
も年長の方は43歳(特に名を秘しますが)と、相対的に若い研究者による研究会で
あったこともこれからの家族研究に大きな意義をもつと思われます。また、西野世話
人によるニュースの作成も迅速に行われ、会員にとって間違いなく有用でありまし
た。毎回会場の準備をしてくださった松田茂樹、西村純子、渡辺秀樹の三会員ら慶応
義塾大学の方々にも厚くお礼申し上げます.
しかし、九州大学の園井ゆり、奈良女子大学の吉原千夏、大阪大学の保田時男、大阪
在住の井上清美の四会員をはじめとして、遠方より参加の学生会員の方々には旅費を
自己負担していただく形での参加となり、何も援助できない現状に世話人として心苦
しく思っています。
計8回の報告については何らかの形でこれを残したいという意見もあり、さまざまな
関係者と今後対応を考えていきたいと思っています。また、98研の活動自体はここで
一段落いたしますが、NFR98やNFR03などに関する情報交換の場としてこのメーリング
リスト自体はこれまでと同様にしばらくは使いつづけたいと思います。
このセッションの成果も踏まえ、来たる9月21日・22日の日本家族社会学会大会では
21日午後に松田茂樹・保田時男・田中重人の3会員の報告によるテーマセッション
「NFR98からの提言」が企画されています。こちらのほうにもぜひご参加ください(運
悪く澤口会員の報告とバッティングしていますので、澤口会員の報告もあわせて検討
ください)。
98研の活動は終わりますが、家族社会学会を通じてまた議論を続けていきましょう!
(世話人代表・稲葉昭英)
 
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