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NFR98検討研究会 ニュースレター No.3
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発行日 : 2002年5月9日
編集:西野理子(東洋大学社会学部)
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目次
1.第3回研究会報告
2.第1報告(田中慶子会員)要旨
3.第2報告(保田時男会員)要旨
4.第3報告(加藤彰彦会員)要旨
5.事務局からのお知らせ
6.次回研究会のお知らせ
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1.第3回研究会報告
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2002年4月27日(土)午後1時より、慶應義塾大学三田キャンパスにおいて第3回研究
会が開催されました。
出席者は以下の20名の方々です(敬称略):
石原邦雄(東京都立大)、稲葉昭英(東京都立大)、太田美緒(東京大)、
加藤彰彦(帝京大)、神原文子(神戸学院大)、澤口恵一(大正大)、
嶋崎尚子(早稲田大)、島田良子(創価大)、末盛慶(東京都立大)、
田中慶子(東京都立大)、田中重人(東北大)、田渕六郎(名古屋大)、
西野理子(東洋大)、西村純子(明星大)、野沢慎司(明治学院大)、
藤見純子(大正大)、西村昌紀(ダイヤ高齢社会財団)、
松田茂樹(ライフデザイン研究所)、保田時男(大阪大)、
渡辺秀樹(慶応大)
第1および第2報告では、NFR98の親子関係評価および親族ネットワーク項目につい
て検討が行なわれました。第3報告では、研究メンバーからの要望にこたえて、S0
1調査の概要および進捗状況が紹介されました。
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2.第1報告要旨
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「NFR98の質問項目の検討:関係の評価・満足度項目-親子関係を中心に-」
田中慶子(都立大学大学院)
NFRマトリックスに基づく整理を行い、NFR98での問題点を3点指摘した。
子・親・義親は関係評価(=良好度)で、配偶者との関係は満足度で尋ねられている
こと、
親子関係に関する情報は、個人単位であったり、カテゴリーであったりと、
測定の単位が一定でなく、汎用性が低いこと、
「家族」全体に対する評価の項目がないことである。
本報告は、親子関係における良好度と満足度の差異についての検討を中心におこなっ
た。
他の調査との比較などから、両者の分布は異なり、尺度として同じではなく、
理論的に考えると、模式的には良好度±期待・不足=満足度である。
NFR98の他の項目との比較からは、良好度の妥当性が十分保証されているとは
言い難いものも、満足度の方が良いともいえない。
03に向けて@項目の統一、Aストレーンや情緒的サポート項目で改訂・増補、
B良好度の尺度構成の修正、ワーディングの改訂、C満足度に統一する、
など改訂方法、「家族」全体に対する評価項目の増設を提案した。
以下のような議論・論点が提示された。
・「家族」全体に対する評価は必要あるのか?
・他の尺度(親密性尺度)導入の提案
・親子関係に関する情報が少なく、1項目で聞くことの限界があるのでは?
年齢層の限定化、対象子の特定、ライフステージごとに調査票を変えるなど、
98のデザインをどの程度継承するのか
・学会員のニーズを探り、それに応じて項目を検討する必要
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3.第2報告要旨
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「親族ネットワークの援助、トラブル項目の検討」保田時男(大阪大学大学院)
本報告では、NFR98調査票における親族ネットワークの援助、トラブルに関する項目
(問28~30)を検討対象とした。既刊報告書においてこれらの項目に言及している諸
論文を手掛かりにしながら、その問題点を指摘し、改善案を提案した。主に指摘した
のは、親族ネットワークの関係相手が個人ではなく集合であることに伴い発生する問
題である。
1.問題の整理
問28~30は、個人(調査対象者)を中心にして、複数の種類の親族集合を並置し、そ
れぞれとの関係を尋ねる形式になっている。関係の相手がindivualではなく、set
(生活共有を伴うgropではなく、共通の属性を持つ者の寄せ集め)であることにより
問題が発生しうる。特定の状況では問題は起こらない。1)setに属する成員が1人の
場合。2)setを定義する属性で分析関心が満たされる場合。別の状況では問題が起こ
る。1)setに属する成員が複数で、成員同士の差異や対立等に関心がある場合。2)
setを定義する属性を越えた個人の特性に関心がある場合。非本質的ではあるが、1)
回答者による誤読、2)分析者による誤読、拡大解釈、という問題も起こりうる。
2.問題の結果としての問28~30の利用状況
問30は、親族サポートネットワーク研究で確実に利用されている。サポートネット
ワーク構造は、異なる属性のsetの中で、どのsetがあてにされているのかという全体
像によって表現されるので、上記の問題は起こりにくく、分析に用いやすいと考えら
れる。問28、29は、特定の関係相手についての項目を抜き出し、夫婦関係研究、親子
関係研究等で利用されることが期待されるが、問30に比して利用度が低い。利用度の
低さは、上記の問題と関連していると考えられる。
3.提案
問30は、意識レベルでのサポートネットワーク研究に対して有効に働いているので、
NFR03においても98を踏まえたもので差し支えない。一方、問28、29は、関係の相手
を特定するように項目を改変すべきである。理想的には、他の項目と同様にマトリッ
クス形式ですべての子やきょうだいとの援助、トラブル関係を尋ねることが望まし
い。この場合、指摘した問題は完全に解消される。質問量の都合からそれが困難な場
合でも、ランダムに1人を選ばせるなどして、関係の相手を個人に特定すべきであ
る。この場合、2つ目の問題は克服できるが、1つ目の問題(set成員同士の差異や関
係についての分析ができないこと)は残される。
4.補足
NFR98では、ほとんどの関係が個人単位で尋ねられており、例外は問28~30以外で
は、問24付問6(子どもとの同伴行動)があるのみである。報告書論文を概観する限
り、問24付問6でも同じ問題が起こっていそうである。
5.その他の提出論点
問28~30の項目を検討する中で最も重要な問題性を感じたのは、以上の点であるが、
報告では、その他に2点の論点を提出した。1)NFRデータ利用において、特定の理論
と特定の質問項目が結びつきすぎていないか。項目の汎用性を高めると共に、調査後
の分析にあたっては、視野を広げ使える項目を使うように工夫すべきである。2)ト
ラブル(問29)の利用が異常に少ないが、基礎集計の分布を見る限り、あるリアリ
ティが適切に測定できているように思え、特に夫婦関係研究には有効そうである。積
極的に利用した方がよい。
6.検討研究会での議論
当日なされた議論の中心的な論点は、報告者の提案のようにランダムな1人との関係
性のみを尋ねると、set全体との関係性の情報が失われるという点であった。「事実
レベルの質問である問28、29について、実体のないset全体との関係を問うことの意
味は、ほとんどない」という報告者の意見には、議論の後も基本的に変わりはない。
しかし、この考えは必ずしも研究者全体に共有されないようである。一方で、ランダ
ムな1人では問題の一部しか解決しない上に、上のような対立も起こりうることを考
えると、やはりマトリックス形式で全ての個人との関係を尋ねるべきである、という
意見も出された。その場合、今回はマトリックス形式で尋ねられている項目の削減を
含めて検討しなければならなくなるが、やはりそれが最も正当な解決策のようであ
る。その他には、これらの質問項目での「援助」の範囲が曖昧で広すぎる点や、非標
準的な家族(離婚を伴う家族等)を考慮に入れていない点を問題にすべきだ、という
意見も出されたが、「特定の家族問題の取扱や仮説検証を目的とする調査ではないこ
とから、汎用性を重視し、現状でよいと考える」という報告者の応答に基本的に異論
は出なかった。ただ、援助の有無の基準(○万円相当以上など)を明確にする必要は
ある、という意見が出された。
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4.第3報告要旨
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「NFR-S01調査ならびに調査票の紹介」 加藤彰彦(帝京大学)
本報告では、実査が行われたばかりのNFR-S01調査について、その概要の紹介
を行った。
1.NFR-S01調査の目的と実施に至る経緯
NFR-S01調査は、NFR98調査項目作成のために第1回NFR研究会(1996
年1月)で組織された8つの作業グループの1つ「特別調査班:戦後50年の家族変動
(通称「戦後班」)」の活動を母体にしている。「戦後班」の提案した調査項目は、
その研究テーマの基本的性格から、NFR98調査とは別に実査を行うことになり、
平成9年度より科研費の申請を行ってきたが、ようやく昨年春に平成13~14年度科研
費(「コーホート比較による戦後日本の家族変動の研究」、研究代表者松田苑子淑徳
大学社会学部教授)が採択され、実施の運びとなった。この調査の目的は、戦後日本
の家族変動を、回想法によって収集した家族経歴・家族イベントのデータをコーホー
ト間で比較することによって明らかにすることにある。それゆえ、記述的性格の強い
調査となっている。
2.実査の概要
・調査名:全国調査「戦後日本の家族の歩み」
・調査対象:平成14年1月1日現在 満32~81歳の女性
(1920年1月1日~1969年12月31日出生)
・調査地域:全国
・標本抽出法:層化二段無作為抽出法
・標本数:5,000
・地点数 :312地点
・調査法:調査員による訪問留置訪問回収法;実査は、社団法人新情報センターに委
託
・調査期間:平成14年1月24日~3月3日
・調査委託費:約2千万円
・回収率:69.5%(NFR98女性回収率は68.6%)
3.調査票の構成
NFR-S01調査票は次の10のブロックからなる。調査票の構成にあたっては、家
族に関わる出来事経験の情報(とくに時点情報)を自記式調査票によって得るために
さまざまな工夫を凝らした。
・結婚の経験・配偶者の情報(問1~問16)
・離死別経験・再婚経験(問17~問19)
・結婚後の親との同居・近居の経歴(問20~問23)
・子どもの情報と第1子の育児経験(問24~問27)
・既婚子との同居・近居経験(問28~問31)
・回答者の出身環境(問32~問38)
・回答者の職業経歴(問39)
・親・義親の介護(・看護)状況(問40~問43)
・回答者のきょうだい(問45)
・結婚後の住居・転居の経験(問46~48)
NFR-S01調査は、現在精力的にデータ・クリーニングを行っている。第1次の
クリーニングが終わった段階のデータを使って、年度末にむけて科研費報告書を執筆
する。その後は、NFR98と同様、学会内でのデータの共同利用ないし一般公開に
むけて準備を進める予定である。
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5.事務局からのお知らせ
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1.ご希望の方に、第3回研究会の報告で用いられたレジュメを、添付ファイルにて
お送りすることができます。
田中慶子会員報告資料(ワード文書、49.0KB)
保田時男会員報告資料(PDFファイル、191KB)
加藤彰彦会員報告資料(ワード文書、54.0KB)
ご希望の方は、「第3回研究会の報告資料を希望」と明記の上、下記までメールにて
お申し込みください。
mnishino@toyonet.toyo.ac.jp (98検討研究会世話人 西野理子・東洋大学)
2.新会員のご紹介
すでにMLにてご紹介がありましたが、以下の方々が研究会メンバーに加わることにな
りました。
広嶋清志(島根大学)
清水新二(奈良女子大学)
島田良子(創価大学)
伊賀光屋(新潟大学)
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6.次回(第4回)研究会のお知らせ
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すでに開催案内が届いていることと思いますが、以下のように開催される予定です。
次回は、月末ではなく1週早くなっている点にご注意ください。
多くの会員の方のご参加と活発な議論を期待しております。
日時:5月18日(土) 午後1:00~5:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス1号館132教室(4月と同じ)
報告:澤口恵一(大正大学)
永井暁子(家計経済研究所)
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