NFR98 検討研究会 ニュースレター No. 4

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             NFR98検討研究会 ニュースレター  No.4
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                          発行日 : 2002年6月1日
                       編集:西野理子(東洋大学社会学部)
 
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 目次
   1.第4回研究会報告
   2.第1報告(澤口恵一会員)要旨
   3.第2報告(永井暁子会員)要旨
   4.事務局からのお知らせ
   5.次回・次々回研究会のお知らせ
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   1.第4回研究会報告
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2002年5月18日(土)午後1時より、慶應義塾大学三田キャンパスにおいて第4回研
究会が開催されました。
出席者は以下の21名の方々です(敬称略):
石原邦雄(東京都立大)、稲葉昭英(東京都立大)、井上清美(お茶の水女子大)、
太田美緒(東京大)、大友由紀子(十文字女子大)、加藤彰彦(帝京大)、
木下栄二(桃山学院大)、澤口恵一(大正大)、嶋崎尚子(早稲田大)、
仙田幸子(独協大)、田中慶子(東京都立大)、田中重人(東北大)、
永井暁子(家計経済研究所)、中西泰子(東京都立大)、西野理子(東洋大)、
西村純子(明星大)、西村昌紀(ダイヤ高齢社会財団)、平尾桂子(上智大)、
藤見純子(大正大)、松田茂樹(ライフデザイン研究所)、渡辺秀樹(慶応大)
第1報告ではNFR98のライフイベント項目について、
第2報告では家事項目について検討が行なわれました。
報告の合間には、石原邦雄会員より、中国との共同研究案が紹介されました。
 
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   2.第1報告要旨
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「ライフイベントに関する質問項目の設計と信頼性」澤口恵一
 (大正大学人間学部人間科学科専任講師)
 
 私の報告ではライフイベントの経験年(年齢)を尋ねた質問における無回答
 の発生、回答方式の選択(年か年齢か?)、考慮すべきバイアスについて検
 討してみました。
 
 1.レビューとコメント
 ・変数作成法への言及が少ない。一方、個別の論文で手続きを説明すること
  が煩雑になるという問題がある。
 ・ライフイベント項目を使用した分析は、イベント経験タイミングを被説明
  変数としたものと、イベントからの経過年数をライフステージを示す説明
  変数として利用したものに二分される。
 ・使用される変数は成人期における移行(学卒、離家、就職、結婚、子の出
  生)に集中する。一方で、離職、父母の出生、死亡、きょうだい出生、最
  初の子の結婚は使われていない。
 ・イベントヒストリー分析を行っていても時間依存共変量は使われていない。
 ・従属変数は月ではなく年(年齢)が使われているものが多い。ただし月は
  満年齢に換算時に利用されている。
 
 2.項目の構成と無回答の発生率
 ・「離別経験者」に初婚無回答が多い(離別経験者の6%が初婚時点に無回
  答、資料は省略)。
 ・成人期の移行に関する出来事の時点無回答は少ない。ただし就職、離家の
  月無回答数は多い。
 ・きょうだい出生年、親の死亡時点の無回答率が高い。
 ・年齢形式の回答率が高く、当該人物の出生年が無回答だと対象者年齢の無
  回答がさらに増える(親の年齢)。
 ・マトリックス形式の質問では複数の項目で無回答が生じるケースが多い。
   
 3.年齢形式の回答選択
  暦年による回答/2.暦年&年齢で回答/3.年齢のみの回答の項目別比率を
  出したところ以下のことがわかった。
 ・2のタイプによる回答がもっとも多い。
 ・年齢のみの回答は成人期の移行に関する出来事で年齢による回答率は10%
  にみたない。一方、親の死亡については年齢による回答が相対的に多い。
 ・年齢形式の回答選択の相関は高い(配偶者出生年を除く)。年齢による回
  答が多いのは、高齢者層、沖縄である。
 
 4.年齢形式の回答のずれ
  暦年&年齢による回答をしたものを対象に、結婚経験について“暦年によ
  る回答-年齢による回答“(暦年による回答は月を考慮に入れた満年齢で計
  算)のずれを計算したところ、以下の結果を得た。
 ・ずれには地域差がある。最小の青森(-0.19)と最大の鳥取(0.63)で
  0.82の差がある。地域差はエディティングの程度を反映している可能性が
  ある。
 ・ずれにはコーホート差がある。若年層ほど回答形式間でずれが大きい。
  また年齢形式の回答がより低くなる傾向がある。一方、もっとも高齢層では年
  齢形式の回答を他コーホートよりも高い年齢で回答する傾向がある。
 
 5.無回答の発生要因
  経験時点を尋ねた25項目について1つ以上の項目で暦年&年齢ともに無回
  答であるケースを”1”、いずれかが明らかである場合を”0”として、
  ロジスティック回帰分析を行った。また全項目の2割以上が無回答の場合
  を1とした分析も行ったところ、以下の結果を得た。
 ・高齢者、離死別経験者に無回答が生じやすい。
 ・女性、高学歴層、未婚者は無回答が生じにくい。
 ・以上の結果は、ほぼ田中論文の知見と一致している。
 
 6.年齢回答が多い属性
  1つ以上に年齢で回答している場合を1としたロジスティック回帰分析。さ
  らに2つ以上の項目で年齢で回答している場合を1、他 を0とした分析を
  行ったところ、次の結果を得た。
 ・高齢者、世帯規模(1、3人)、離死別経験者に年齢回答が多い。
 ・高学歴層とりわけ大卒者は年齢回答が少ない。
 ・年齢による回答形式の選択は、不明とほぼ同じ要因によって同じような影響
  を受けている。
 
 7.提言
 (a).すでに行われたNFR98調査の分析をするさいには、変数の作成方法について
  詳しく記載しておく必要がある。作成方法の選択にあたっては、ここにあげた
   バイアスが生じていることを慎重に考慮する必要がある。
 (b).年齢/元号形式の併用には問題がある。質問形式はそのままにしておき、調
   査員のエディティングにより西暦で一本化する形式にしたほうがよいのではな
   いか(とりわけ海外でのデータ利用を促進する場合)。そのさいには、対象者
   に元号・年齢・西暦の換算表を配布する必要がある(S01方式)。また月は年齢
   による回答形式でも回答できる形にする必要がある。
 (c).年と年齢による回答にずれに地域差が生じるという問題をどう解釈するか?
   現地でのエディティングの結果であるとすれば、次回調査でのインストラクシ
   ョンや調査会社との交渉で改善する必要がある。また出来事経験タイミングの
   地域差については慎重に分析をする必要がある。
 (d).成人期への移行に関する出来事/それ以外の出来事で回答の質や変数の使用
   状況に大きな違いがある。後者(とりわけ親の死)は時点を年号/年齢などの
   数値で回答する形式ではなく、特定の時点での生死、同居別居状況などをたず
   ねる形式にした方がよいのではないか。そのさいには、介護項目などの分析課
   題や分析手法を検討したうえで、新たな質問形式を作成する必要がある。
 (e).上に関連して、成人期への移行出来事以外の項目は、10年おきに質問をする
   もしくは焦点となる対象をしぼって尋ねる形にする、のでも十分ではないか
   (きょうだいの出生年など)。そのうえで10年間隔で職業キャリアに関する質
   問などを組み込むことを考慮してはどうか。
 
 8.議論
 (a).望ましい変数の作成法については研究会などの場で議論する必要がある。
 (b).について。従来どおりの配布形態にも、複数の回答形式のデータが含まれてい
    るからこそバイアスについて十分検討ができるという利点がある。/回答のずれ
    を調査員に修正させると、不慣れな調査員によるエラーが生ずる恐れがある。
    /回答形式を元号に統一することにより無回答が増えるかどうかについてはS01
    データを検討する必要がある。
 (c).S01や他の調査において、調査員が年齢の計算を誤る事例が報告された。
 (d).無回答率が高い項目、分析に使われていない項目についても、年・年齢を特定
    する必要はあるのではないか。
 (e).あらたなライフイベント項目を追加することはスペース上困難なのではない
か。
 (他).回答形式による経験年齢のずれについては、結婚以外の項目では検討をしてい
   なかった。項目による違いもあるのではないか。
 
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   3.第2報告要旨
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 「家事・育児項目、労働日数・時間項目についての検討」
永井暁子((財)家計経済研究所) 
 
 本報告では、NFR98調査票の家事項目(問16付問15)と労働日数(問8付問4)、
労働時間(問8付問5)についての本人回答と配偶者回答の分布の違いに関する検討、
家事遂行に関する測定項目として週あたり頻度と家事時間のいずれが妥当かを議論した。
 
1.本人回答と配偶者回答の分布の違い
 労働日数、週あたり労働時間に関する本人回答と配偶者回答のズレは、非常に少な
いという結論に至った。家事・育児項目についても同様の結論である。家事・育児各
項目の遂行頻度はどの年齢層でもズレはきわめて小さかった。
 1997年10月に実施された夫婦関係予備調査では、選択肢を「全く行わない」、「1
ヶ月に1~2日」、「1週間に3~4日」、「ほぼ毎日」と設定したが、「全く行わ
ない」と「1ヶ月に1~2日」の間での回答のズレが多く生じていると考えられたた
め、本調査(NFR98)では週あたり頻度に統一したという経緯があった。予備調査の
成果がいかされたといえるだろう。 
 
2.家事・育児遂行に関する測定項目
(1)週あたり頻度と家事時間
 家事・育児遂行を測定する際には、主観的な頻度(「いつもする」、「時々する」、
「ほとんどしない」)、時間(Time UseもしくはNSFHのように各家事項目別に週あた
り費やした時間、あるいは週あたり・1日あたりの合計家事労働時間)、もしくは、
夫と妻の間の分担(「主に妻」、「半々」、「主に夫」)を尋ねる質問等が知られて
いる。
 各家事項目の遂行頻度を足しあげたものを家事遂行の変数として扱うことの是非が
問題提起された。これについてはこれまでにも議論がされているが、家事遂行に対す
る一貫した度合いとしてとらえてよいのではないかという意見が出された。
 国際比較の意向を持つ研究者から時間による測定について希望が出されるかと考え
ていたが、特にそのような要望はなかった。時間を尋ねることも家事について国際比
較を行うことも非常に難しい。NSFHのように各家事項目についての週あたり時間を回
答することは非常に難しく、また、NSFHデータと他のデータでは異なった分析結果が
得られているとの発言もあった。国際比較を行う場合はTime Useデータの利用が望ま
しいが、NFRでTime useを調査に組み入れることは調査設計上困難であるという結論
に至った。
 
(2)家事項目の選択
 夫婦関係予備調査では「食事の用意」、「あとかたづけ」、「洗濯」、「風呂そう
じ」、「部屋掃除」、「ゴミ出し」、「子どもの世話」、「介護・看護」、「日常の
買い物」の9項目であった。調査票のボリュームを減らすために家事項目についても
本調査では「食事の用意」、「洗濯」、「風呂そうじ」、「子どもの世話」、「介護
・看護」の5項目に減少させている。「ゴミ出し」は住宅形態や自治体によってゴミ
を出すことが可能な週あたりの頻度が異なっており、「あとかたづけ」は「食事の用
意」と、「部屋掃除」は「洗濯」と相対的に相関が高く、「日常の買い物」は家事と
しての買い物とそれ以外の買い物が混在しやすいという理由で除いたと思われる。
 「食事の用意」、「あとかたづけ」のように週あたり頻度がどの世帯でも高い項目
と、「洗濯」、「風呂そうじ」、「部屋掃除」のように週あたり頻度が世帯によって
異なる項目があるが、可能であれば両者の項目数をそれぞれ複数項目にした方がよい
のかもしれない。
 「子どもの世話」については1項目しかもうけることができなかったため、分析す
ることが困難であった。また、「比較的軽い」領域と「めんどうな」領域が混在して
おり、分析結果を解釈することが困難であった。複数にするか除去するか何らかの変
更が必要であろう。
 「看護・介護」は該当者が少なく、除いた方がよいかもしれない。また、「看護・
介護」はもともと高齢者調査のために作成したものであるが、調査票の圧縮の際に家
事調査の中に移動したと思われる。「看護・介護」がある場合は、毎日行っているか、
週に1日程度行っているかのいずれかであるとの意見も出された。 
 
3.その他の論点
(1)家事の外部化・合理化(省力化)に関する項目、家事総量や家事内容に関する配
慮
 「中食」・「外食」等の購入、「自動食器洗い機」・「浴室洗浄システム」等の利
用、家事サービスの購入が家族成員の家事労働量を減少させる側面があるという指摘
があった。NFRの限られた調査票では調査項目として入れることは難しいが、私自身
個人的にも関心が高い調査項目である。とりわけ国によって異なると思われ、また、
日本においてもライフステージ・回答者やその家族の家事への志向性によっては異な
ると思われる家事の総量・家庭内で行われる家事内容についての配慮も必要ではない
かとの意見も出された。 
 
(2)NFR03での調査項目の削減
 夫の家事遂行が激増するとは考えられないので、調査票にこの項目を入れるのは10
年間隔でよいのではないかという意見が出されたが、この調査項目は説明変数として
だけではなく、被説明変数としても用いられているので、残した方がよいという意見
も出された。
 
4.まとめ
 労働日数、労働時間についてはNFR98項目を継続してよいように思われる。家事項
目の選択はNFR98と比較できる範囲で検討が必要である。育児について1項目のみ設
けることについては議論の余地があり、(該当者がいない場合はスキップする形態を
とり)複数項目にする、あるいは除去するのいずれかを選択すべきだろう。介護・看
護についてはさらに該当者が少なく、育児項目と同様、問題が残る。家事の遂行頻度
の選択肢は現状維持でよいのではないかと思われる。
 
お詫び:検討会当日、私用で大変遅れましてご参加いただいた皆様にはご迷惑をおか
けいたしました。この場をお借りしてお詫び申し上げます。
 
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   4.事務局からのお知らせ
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ご希望の方に、第4回研究会の報告で用いられたレジュメを、添付ファイルにてお送
りすることができます。
 澤口恵一会員報告資料:報告レジュメ(ワード文書、28.0KB)
            報告資料(ワード文書、387KB) 
 永井暁子会員報告資料:報告資料(LZHファイル、58KB)
 ご希望の方は、「第4回研究会の報告資料を希望」と明記の上、下記までメールに
てお申し込みください。
 mnishino@toyonet.toyo.ac.jp (98検討研究会世話人 西野理子・東洋大学)
なお、上記の資料の一部のみご希望の場合は、その旨をあわせてお知らせください。
 
                         
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   5.次回・次々回研究会のお知らせ
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 次回(第5回)研究会
 日時:6月29日(土) 午後1:00~5:00
 場所:慶應義塾大学三田キャンパス1号館132教室(5月と同じ)
  報告:田渕六郎(名古屋大学)
     西野理子(東洋大学)
 
 次々回(第6回)研究会
 日時:7月27日(土) 午後1:00~5:00
 場所:慶應義塾大学三田キャンパス1号館132教室
 報告:野沢慎司(明治学院大学)
    平沢和司(北海道大学)
 
報告内容については、おってML上で連絡がきます。
多くの会員の方のご参加と活発な議論を期待しております。
 
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