NFR98 検討研究会 ニュースレター No. 6

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             NFR98検討研究会 ニュースレター  No.6
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                     発行日 : 2002年8月5日
                     編集:西野理子(東洋大学社会学部)
 
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 目次
   1.第6回研究会報告
   2.第1報告(野沢慎司会員)要旨
   3.第2報告(平沢和司会員)要旨
   4.事務局からのお知らせ
   5.次回研究会のお知らせ
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   1.第6回研究会報告
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 2002年7月27日(土)午後1時より、慶應義塾大学三田キャンパスにおいて第6回研
究会が開催されました。
 出席者は以下の27名の方々です(敬称略):
 石原邦雄(東京都立大)、稲葉昭英(東京都立大)、太田美緒(東京大)、大友由
紀子(十文字女子大)、加藤彰彦(帝京大)、神原文子(神戸学院大)、木下栄二
(桃山学院大)、澤口恵一(大正大)、嶋崎尚子(早稲田大)、島田良子(創価
大)、清水新二(奈良女子大)、仙田幸子(独協大)田中慶子(東京都立大)、田中
重人(東北大)、永井暁子(家計経済研究所)、中西泰子(東京都立大)、西野理子
(東洋大)、西村純子(明星大)、西村昌紀(ダイヤ高齢社会財団)、野沢慎司(明
治学院大)、平沢和司(北海道大)、藤見純子(大正大)、松田茂樹(ライフデザイ
ン研究所)、保田時男(大阪大)、吉原千賀(奈良女子大)、脇坂真理子(東京都立
大)、渡辺秀樹(慶応大)
 第1報告ではNFR98のネットワーク項目について、第2報告では きょうだい項目
について検討が行なわれました。27名と、第1回を除いては参加者がもっとも多く、
近年の研究動向からNFRの方針まで、多様な議論が行われました。
 また、この研究会とNFR03実行委員会との共催で近々、サンプリングについて専門
家を招いた研究会を開催することになりました。詳しくは次回研究会についての欄を
ご覧ください。
 
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   2.第1報告要旨
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「サポート・ネットワーク関連項目の検討」野沢慎司(明治学院大学)
 
 「サポート・ネットワーク」という概念が使われる背景には2つの水脈がある。ひ
とつは、サポート機能論の水脈であり、「家族」「親族」「非親族」などの関係カテ
ゴリーごとの「機能」を問う視点である。もうひとつは、ネットワーク構造論の水脈
であり、個人が持っている行為者間の紐帯ひとつひとつの特性およびその集合として
のネットワークの「レンジ(規模/異質性)」「密度」などの「構造」特性を問う視
点である。(日本の)家族研究史における「ネットワーク」という概念の使用は、サ
ポート資源としてのネットワークを意味することが多く、構造論ではなく機能論に力
点が置かれてきた。同様に、NFR98のサポート・ネットワーク項目設計においても、
機能論が思想的源泉となってもいる。しかし、両者の交差するところでサポート・
ネットワークに注目することに研究上のメリットがある。現代人にとってパーソナル
・ネットワークの構造は複雑化してきており、そこで交換されるサポートの効果は単
純なものではない。サポートの効果は、ネットワークの構造によって媒介されるとみ
るべきだ。最近の日本でも、育児ネットワーク構造のサポート効果に関する研究な
ど、構造論的視角からの先端的な研究成果が出始めている。このような視点を重視す
るならば、今後のNFRは機能論から構造論へと(思想的に!)さらに一歩踏み込むこ
とを意味する。
 NFR98データを使った報告のうち、ネットワークを独立変数とした分析を行ってい
るIshii-Kuntz論文 (2-3)と立山論文(2-3)の二つを検討してみた。いずれもNFR98
調査項目におけるネットワーク項目に限界を見いだしている。それを参考にネット
ワーク関連項目に関する提言を試みた。独立変数としてのネットワーク構造の利用価
値(ニーズ)は拡がりつつある。NFR98調査の既存項目のなかでも充実している家族
意識やwell-beingおよび夫婦関係など個別のダイアドの特性を従属変数とした分析に
おいて独立変数として利用できる。その際、非親族ネットワークについての情報を補
うことが有用である。関係のある具体的相手を抽出する方法(name generater)を使
うかどうかが判断の分かれ目になる。米国の全国調査1985 GSSで使用された、5人ま
での中核相談ネットワークのような方法が使えるのではないか。調査コストを最小限
に抑えて有用なネットワーク構造変数を増やすには、中核的親族関係に関しては、既
存の質問紙構造をできるだけ利用して、サポート項目を個別に追加していく方法がよ
いのではないか。非親族については、できるだけ簡便なname generaterとname
interpreterの質問を別個追加してはどうだろうか(そこに周辺的親族を含める可能
性もある)。ネットワーク密度や夫婦間のネットワーク分離傾向、ネットワーク内同
質性や親族比率などの構造変数が部分的にでも測定でき、分析に使用すれば、家族意
識や家族関係の差異・変動の解明に向けての選択肢が大いに拡大するだろう。
 
議論
 報告後に参加者から、いくつかのコメントが出された。その多くは、回答者にかな
り負担がかかると思われるネットワーク項目の妥当性や信頼性に関わっていた。GSS
にならった方法で行われた育児期の母親やステップファミリーの親に対する調査など
の経験から、さほど問題はなかったとの見解が示されたが、高齢者がサンプルに含ま
れる場合は改良が必要であることが示唆された。また、ネットワーク密度を測定する
ためにネットワーク・メンバー間の関係の有無やその親しさの程度を問う設問などに
ついて、理論的・技術的な問題が指摘された。そうした問題のいくつかは、自記式で
なく面接法にすれば改善されるとの見解も示されたが、回答者の負担や誤記を少なく
するためには事前にさらに検討が必要だろう。
 
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   3.第2報告要旨
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「きょうだい構成に関わる項目の検討」平沢和司(北海道大学医療技術短期大学部)
 
 本報告では、1.きょうだい構成に関わる項目の検討、2.平均きょうだい数の他調査
との比較、3. <配偶者の>きょうだい数に関する項目と<本人の>子供数、4. きょ
うだい構成を調査する意義、に関して報告した。
 
1. 本人のきょうだい構成に関わる項目の検討
1-1.本人のきょうだい構成に関する項目のうち、問26で死亡した者をふくむきょうだ
い数、問26-1で生存しているきょうだい数を尋ねている。(質問紙では本人をのぞく
数値を答えさせているが、以下でいうきょうだい数は、本人をふくむ数値である。)
無回答は、問26では全体6985票のうち20票(0.3%)ときわめて少なく、とくに問題
はない。
 他方、本人の出生順位や長男であるか否かについては、それを直接たずねる質問が
ないため、本人ときょうだいの出生年から計算せざるを得ない。ところが、出生順位
を確定できるのは、@きょうだい数(本人をふくむ)が4人以下で、A本人以外の
きょうだいも全員が調査時に生存し、Bそのきょうだいが出生年を正確に答えている
ケースに限られる。したがって、調査時に生存しないきょうだいがいるケースや、調
査時にきょうだい全員が健在でも、きょうだい数が5人以上で、本人が第4子以降の末
子に近いケースでは、本人の出生順位が4以降いくつか確定できない。出生順位とい
うきわめて基本的な属性を、少なからぬケースで確定できないのは問題である。
1-2.そこで次回NFRでどのように改善すべきかを考える参考として、他の全国規模の
調査における同項目を検討した。1965・1975・1985・1995年SSM、1994年世帯変動調
査、2000年JGSS、2002年NFR-S01を検討した結果、兄・姉・弟・妹がそれぞれ何人か
を直接尋ねるJGSSの質問が、改善案の候補としてあげられた。ただし、NFRでは死亡
したきょうだいと生存しているきょうだいの双方を尋ねる必要があるので、その点を
考慮すべきとの指摘が参加者から出された。
 
2.平均きょうだい数の他調査との比較
2-1.つぎにNFR98における「きょうだい数」の妥当性を知る手がかりとして、出生
コーホート別平均生存きょうだい数を、先に掲げた全国調査と比較した(数値は「報
告資料」のなかの表を参照)。出生コーホートの区分は、出生動向調査にあわせた。
その結果明らかになったのは、
@1999出生動向調査と比較すると、NFRのほうがすべてのコーホートで平均値が高
い。NFRが半年前に行われたことを勘案しても、とくに高齢コーホートでその差が大
きい。→この点は第1回西野報告で指摘されている。
A1994出生動向調査と比較して、1995SSMは1年後に行われたにもかかわらず、ほとん
どのコーホートで平均値がやや高い。
⇒出生動向調査は一貫して数値が低い傾向がある。これは同調査の「個人票」が、対
象となった世帯に同居する18歳以上の世帯員全員に回答を求めているからか?
B個人単位で抽出されたSSMと比較しても、3年4ヶ月後に行われたNFRでは、高齢コー
ホートでは数値が低いが、若年コーホートで数値がほぼ一致している。
⇒誤差の範囲かもしれないが、NFRは数値が高い傾向がある?
2-2.それではなぜNFRはきょうだい数が高めなのか?それを考える手がかりとして、
調査地点都市規模別に全年齢層の平均生存きょうだい数を求めると、町村ほどきょう
だい数が多い。そのうえ町村ほど回収率が高いので、NFRはきょうだい数で見る限
り、町村や10万未満都市のサンプルを過剰にふくんでいるために、きょうだい数が高
めにでている可能性があることを指摘した。こうした回答バイアスが調査後に判明し
ても、それを補正することは現実には無理だが、そうしたバイアスがあることを分析
者がつねに念頭に置くことはきわめて重要である。この点は石原会長も強調されてい
た。
 
3.<配偶者の>きょうだい数に関する項目と<本人の>子供数
3-1.問31(1)(キ)で配偶者のきょうだい数を尋ねている。とくに大きな問題では
ないが、「配偶者と離死別した者」「配偶者がいない者」はどう答えるべきかとくに
指示がないこと、「配偶者を除いたきょうだい数」を記入する指示がないこと、が今
後の改善点としてあげられた。
3-2.配偶者が健在な者に限って、配偶者の出生コーホート別平均きょうだい数を求
め、さきの本人の出生コーホート別平均きょうだい数と比較すると、高齢コーホート
で数値が本人データより低めであるが、若年コーホートではほぼ一致しており、とく
に問題はないことがわかった。
3-3.本人の子供数(問24)は、子供からみればきょうだい数である。NFRでは問24で
養子・継子・死亡子を含めた子供数を尋ねたうえで、付問1でその第1子から第5子ま
での性別・出生年月・健在死亡を、付問5で健在子にかぎって第3子まで8項目の質問
をしている。ここでは、付問1と付問3でそれぞれの子供を同定する作業が、とくに子
供数が多く死亡子がいるばあい、意外と煩雑であるので、付問1と付問5をひとつの表
にすることを提案した。それに対して参加者から、調査票ではこのままにしてデータ
セット作成時に同定をしやすくする工夫をすべきとの意見が出された。また付問5で
回答させる子供が、年長の3人ではなく、とくに「3番目のお子さん」は「末子」の
ほうがよいのではという提案をしたところ、かならずしも意見の一致をみなかった。
さらに焦点子を採用する際の問題点が論じられた。
 
4.きょうだい構成を調査する意義
 NFR論文のなかで、きょうだいとの関係・家族認知におけるきょうだいを検討して
いる研究は多いが、きょうだい構成そのものに言及している研究は少ない(保田論文
(2-2、1頁~)、佐藤論文(2-6、169頁~)、拙稿(2-5、83頁~)などは例外
的)。換言すれば、家族の内部ではなく、きょうだいを通じて家族と職業・教育との
関係を検討する研究がやや少ないように思われる。
 しかし@きょうだい構成を尋ねる全国規模の調査が意外と少ない、Aさらに実の
きょうだいの学歴などを直接比較できるデータはほかにおそらくない。(SSMでは実
のきょうだいの学歴を比較することはできない)B本人のきょうだいと、本人の子供
というふたつの視点から、きょうだいを検討できるデータは非常に少ない。これらの
点からしても、家族社会学を専攻するもの以外にとってもNFRデータは貴重であり、
その充実が望まれる。NFR98のスタイルを大幅に変更するのが難しければ、10年後の
調査は今回の形式で行い、その中間調査では調査トピックをしぼって重点的に行うと
いう形式が考えられても良いのでは、という提案をした。
 こうした主張に対して、なぜきょうだいと教育や職業との関係を問う研究がすくな
いのか、その背景にはそうしたきょうだい研究が家族研究にあたえるインパクトや意
義が見えにくいからではないか、学歴を答えることには抵抗がある対象者が多いの
で、たとえば本人のきょうだいの学歴をあらたに尋ねることには慎重であるべきだ、
むしろそうした質問はSSMに盛り込むべきだ、逆に母学歴なども尋ねなくて良いの
か、などさまざまな意見が出された。
 
 
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   4.事務局からのお知らせ
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ご希望の方に、第6回研究会の報告で用いられたレジュメを、添付ファイルにてお送
りすることができます。ただし、当日配布されたレジュメそのものではなく、図など
一部が抜けたバージョンになります。
  野沢慎司会員報告資料:報告レジュメ(ワード文書、32KB)
 平沢和司会員報告資料:報告レジュメ(ワード文書、56KB)
ご希望の方は、「第6回研究会の報告資料を希望」と明記の上、下記までメールにて
お申し込みください。
 mnishino@toyonet.toyo.ac.jp (98検討研究会世話人 西野理子・東洋大学)
なお、上記の資料の一部のみご希望の場合は、その旨をあわせてお知らせください。
                        
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   5.次回研究会のお知らせ
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 次回(第7回)研究会
 日時:8月31日(土) 午後1:00~4:00(予定、変更あり)
 場所:慶應義塾大学三田キャンパス西校舎515教室
 **教室がこれまでと異なりますのでくれぐれも注意ください!**
 
 これまでの研究会活動の総括を行い、NFR98の成果と問題点、提言をまとめます。
 事前にMLにて資料を公表する予定です。NFR98検討研究会としては最後の研究会
になります。多くの会員の方のご参加と活発な議論を期待しております。
 
 冒頭に記しましたように、このNFR98検討研究会とNFR03実行委員会との共催で、サ
ンプリングについての勉強会を計画しています.日程が確定次第MLで情報を送信予定
です。
 NFR98やNFR-S01のサンプリング手法について検討するだけでなく、幅広くサンプリ
ング手法について専門家(統計数理研究所の方々を予定)の意見を聞く場にしたいと
思っています。ふるってご参加ください。
 
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