NFR98 検討研究会 ニュースレター No. 5

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             NFR98検討研究会 ニュースレター  No.5
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                     発行日 : 2002年7月3日
                     編集:西野理子(東洋大学社会学部)
 
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 目次
   1.第5回研究会報告
   2.第1報告(西野理子会員)要旨
   3.第2報告(田渕六郎会員)要旨
   4.事務局からのお知らせ
   5.次回・次々回研究会のお知らせ
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   1.第5回研究会報告
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2002年6月29日(土)午後1時より、慶應義塾大学三田キャンパスにおいて第5回研
究会が開催されました。
出席者は以下の17名の方々です(敬称略):
石原邦雄(東京都立大)、稲葉昭英(東京都立大)、太田美緒(東京大)、
加藤彰彦(帝京大)、神原文子(神戸学院大)、澤口恵一(大正大)、
嶋崎尚子(早稲田大)、清水新二(奈良女子大)、田中慶子(東京都立大)、
田渕六郎(名古屋大)、永井暁子(家計経済研究所)、西野理子(東洋大)、
西村純子(明星大)、西村昌紀(ダイヤ高齢社会財団)、野沢慎司(明治学院大)、
松田茂樹(ライフデザイン研究所)、渡辺秀樹(慶応大)
第1報告ではNFR98の家族認知項目について、
第2報告では親族の居住関連の項目について検討が行なわれました。
報告を踏まえた議論の中で、家族調査のメタ研究が必要ではないかというところまで、
幅広い議論が交わされました。
 
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   2.第1報告要旨
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「家族認知項目の検討」西野理子(東洋大学)
 
報告では、NFR98のいわゆる家族認知項目をとりあげ、その成果と問題点を
検討し、NFR03に向けた議論の素材を提供した。
 
1.NFR98の成果の検討
報告書で認知を取り上げていた6論文の成果からみる限り(表2・3)、他項目
との関連からみた内容の妥当性はあるが、論者によって概念設定が曖昧で、概念
の妥当性には疑問がある。
NFR98の家族認知項目の問題点は、以下にまとめられる。
1)全国家族調査に含める必要性があるかどうか
理論的必要性については緒論があるが、研究者によって立場が異なり、結論は望
めない。利用可能性という点では、報告書を見る限り、さまざまな角度から利用
されている。同等の調査がほとんどなく、国際比較可能性はまったくない。同じ
理由により、他の調査による代替性は低い。
2)構成概念としての妥当性
認知概念が多様に解釈されており、概念としての妥当性に欠ける。個別の認知か、
家族境界かも議論が分かれている。
3)親族という前提および親族カテゴリーの網羅性
NFR98は親族カテゴリー別の認知であり、親族カテゴリーを12にあらかじめ
限定している。さらに、親族カテゴリー間で質問方式が異なる。
4)反復調査の必要性
認知の高低がライフステージ効果であるのか、世代効果であるのかなどを解明し
ていくには、さらなる反復調査の結果が必要である。
5)選択肢の設定方法
「どちらともいえない・わからない」回答の扱いが論者によって異なり、独立し
た被説明変数とする分析、「いいえ」と含めた分析、除外した分析がある。ただ
し、この点は研究者の意図によって異なるのが当然で、大きな問題点ではない。
 
2.NFR03に向けて
NFR03に向けての論点は、@ 家族認知項目を継続すべきか否か:5年間隔で
きいておくべき項目かどうか、A 継続するとした場合、質問方式は現行のま
までよいか、B 調査に含むべき親族は現行のままでよいか、の3点である。
これらの論点を考察する上で、社会保障・人口問題研究所が2回にわたって実施
した家庭動向調査の結果を紹介した。家庭動向調査では、「一般的に、下の欄に
あげるア~スの人は「家族」の一員と言えると思いますか」とたずねて「1.同
居、別居にかかわらず家族である  2.同居していれば家族である  3.同
居していても家族とはいえない」のいずれかで回答してもらう形式で、「一般的」
な家族についての認知をたずねている。5年を隔てて実施された第1回と第2
回の結果を比較すると、ワーディングと配列の変更により、大幅な変動が測定され
ていた。それでも、質問方式の変更による影響がほぼ該当しない「20歳以上
の未婚の子」項目で5~11ポイントの差があり、5年の時間幅による変動が示唆さ
れていた。
報告では、NFR98で観察されたコーホート差(年齢集団間の差)を説明するた
めに次回のデータが必要とされていること、他調査で認知項目はとりあげられ
ていないか方法がまったく異なること、5年間での変動が予測されることをふまえ
て、次回NFR03でも認知をたずねてはどうかと提案した。また、方式を変
更すると回答が大きく異なることから、同じ方式での質問を提案した。
 
3.研究会での議論
認知項目はNFR98で広く関心を呼んだ項目であり、かつ、問題も多く指摘され
ている。当日の研究会の場でも、数多くの批判が寄せられた。
まず第1に、家族の境界なのか親密性か、いったい何を測っているか、概念が不明
確である。
第2に、量的調査で測定可能なものの質を問いながら方式を検討する必要がある。
家族ではないというネガティブな選択肢は選ばれにくく、認知を問うのであれ
ば「あなたの家族は誰ですか」という聞き方など、別の方式も検討すべきである。
医療関係では実際に、この方式でたずねている。
第3に、認知は短期間での変動が予想されず、次回採用の優先順位が低い。ただし、
説明変数としての可能性があれば取り入れるべきとの意見もある。
方式は、現行の親族マトリックス形式による親族の聞き方の継続にも依存する。
とにかく理論的な整備が必要ということで、西野を中心に数名がさらに検討を加え、
ML上で議論を継続することになった。
 
というわけですので、いずれかの時点でMLで再提案します。
引き続きよろしくお願いします。
なお、当日の報告は図を多用して行いましたが、報告レジュメには図は記載してお
りません。お入り用な方は、ご連絡ください。
 
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   3.第2報告要旨
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「居住関係に関する項目の検討」田渕六郎(名古屋大学)
                              rtab@nifty.com
 本報告では、NFR98の居住関係にかんする項目を検討した。主に
 「世帯表」の有無にかんして検討し、簡単な世帯表を設けてはどう
 かという提案を行った。
 
 報告で扱った居住関係にかんする項目とは、世帯に同居する成員、
 特定カテゴリに属する親族の同別居にかんする項目であり、具体的
 には問12(現在一緒に住んでいる者)、問24付問5(健在の子ども
 第1~3子との居住関係)、問26(きょうだいとの同別居)、問2
 5・27(父母・義父母との居住関係)などである。
 
 はじめに、これら項目を被説明変数や説明変数として用いている報
 告書論文を概観した。(ただし世帯構成にかんする変数を用いた論
 文も含む。)資料1から分かるとおり、被説明変数として扱ってい
 た論文は多くないが、多くの論文が居住関係にかんする項目を取り
 扱っていた。これらから、世帯の居住関係にかんする項目のニーズ
 は大きいことが示唆される。
 
 
 1.世帯表(HOUSEHOLD ROSTER)の必要性
 本報告の主たる論点として、「世帯表はなくてもよいか?」という
 問いを検討した。
 世帯表とは、全世帯員についての基本的人口学的情報を一覧するた
 めの表である。既存の大規模統計調査、家族調査の多くでは世帯表
 が導入されている。ここでは一例として全国家庭動向調査(平成5
 年)のそれを挙げた(資料2)。同調査票の世帯表では、世帯主と
 の続柄、性別、年齢、配偶者有無はもちろん、それ以外の情報につ
 いても全ての同居世帯員についてたずねている。JGSSでも同様の
 世帯表(正確には「家族表」)を用いている。
 NFR98は全ての同居成員についての同様の情報を集めておらず、
 その意味で世帯表を欠く。NFRの基本的な関心は「個人」にあるか
 らである。「本調査の対象は個人である。世帯を単位とするもので
 はない。」(報告書2-7,渡辺論文「NFR98の思想」, p.80)という
 言葉にそれは集約されている。サンプリングでは個人抽出を行い、
 調査票では世帯表を欠くために、NFR98は基本的に回答者ベース
 の集計を想定する調査票構造になっている。
 当然ながらそのような調査票設計の結果、世帯表があればできるこ
 とができないという結果を招いている。世帯表を用いて可能になる
 集計としては、1)世帯員単位の集計(例えば特定年齢の成員を抽出
 した上での個人単位の分析や、特定年齢の成員を含む世帯の分析な
 どが考えられる)、2)世帯主属性別の集計(世帯主年齢階級別の世
 帯にかんする集計など)が挙げられるだろう。
 ところでNFR98調査票は必ずしも世帯にかんする情報に関心がな
 いわけではない。しかし調査票構造ではそうした情報を特定する上
 での「中途半端さ」が目立つ結果となっている。一例として世帯主
 を特定する項目(問13)を用いた場合、世帯主がどの親族カテゴ
 リに属するかを同定することはできても、その世帯主がどのような
 人口学的属性を持つ世帯主なのかを特定することができない場合が
 生じる。じっさい報告者が試みたところ3%程度のケースは世帯主
 の年齢階級が特定できないことが判明した。(調査票面積の都合か
 らやむを得ない面もあるとはいえ、このような中途半端さは、健在
 子全員の情報を特定できないことなどにもわたっている。)
 世帯主年齢を特定できないことからも示唆されるように、世帯表が
 存在しないことのデメリットはとりわけ他の全国規模の調査と比較
 を行う上での困難をもたらすことになる。国勢調査のみならず国民
 生活基礎調査は世帯主年齢階級別の集計表を多く含んでいるが、そ
 れらとの正確な比較は難しい。またこれらの調査以外にも世帯動態
 調査などは世帯員ベースの集計を併用しているが、そうした集計と
 の比較も困難である。第1報告書の稲葉論文がNFR98サンプルの偏
 り(世帯構造、有配偶率等について)を指摘しているが、世帯表が
 ないためにそのようなサンプルにおける偏りをチェックすることが
 十分にできなくなる可能性が生じることは大きなデメリットになる
 だろう。
 これにとどまらず、世帯員全員の人口学的情報が分からないという
 ことは、例えば世帯に含まれる65歳以上成員を全て抽出して個人
 単位の集計や分析を行うといった研究関心にはNFR98のデータセ
 ットは十分には応えられないということを意味するし、世帯構造の
 細かな分類などに関心を持つ研究者も十分な情報を手に入れること
 ができないということになる。
 全世帯員についての集計はできないために直接の比較は不可能だが、
 親と子どもとの同居割合についてNFR98の回答者ベースの集計結
 果について性別・年齢階級別に1995年国勢調査との比較を行った。
 例1は親との同居割合についてである(資料3)。稲葉論文が指摘し
 たようにNFR98サンプルは単身者や未婚者の割合が低いわけだが、
 それらを反映して、特に相対的に若い年齢層で親との同居割合が高
 い。この偏りはとりわけ未婚者のサブサンプルで顕著である。NFR
 98データを用いて親子の居住関係などを分析する場合にはサンプ
 ルの偏りに十分に注意する必要があるだろう。例2は子どもとの同
 居割合についてである(資料4)。資料3に比べると偏りは相対的に
 小さく見えるが、死別離別経験者のサブサンプルについては差が大
 きい。これは(多くが単身世帯を形成する)死別離別経験者がNFR
 データには十分に含まれていないということ、NFR98データが特
 定の家族経験を持つ者に偏っていることを示唆する。
 これら比較はNFR98が回答者ベース集計、国勢調査が全世帯員に
 ついての集計であるという意味で比較には限界があるが、NFRが世
 帯表を含んでいればこうした比較が相対的に行いやすくなるという
 点で、世帯表を設けることの意義を示唆していると思われる。また、
 世帯にかんする変数を用いた報告書論文が多いことをふまえれば世
 帯表を設けることのメリットは少なくない。
 
 以上を踏まえ提案を行った。もちろん世帯表は調査票のなかでそれ
 なりの面積を必要とするわけだから、世帯表を含むことのメリット
 がデメリットを上回るのでなければ世帯表を設ける積極的な意味は
 ない。報告者は、限られた人口学的情報にかんする(回答者との続
 柄、性別、年齢、配偶者有無程度の情報)簡単な世帯表を設けるこ
 とは可能であるし望ましいのではないかと提案する。NFR98デー
 タから見る限り同居成員についての情報(例えば父年齢)は無効回
 答が少ないことが分かっており、世帯表のかたちでたずねた場合で
 も無効回答が大きく増えるとは考えにくい。既存の調査でも自記式
 で年齢、性別等の簡単な世帯表を設けた例が幾つかあることから考
 えても、世帯表を設けることじたいの技術的難点は少ないだろう。
 
 2.居住関係についての項目の検討
 親、子どもとの居住関係(調査票 問24付問5 問25付問 問27付
 問)について他調査との結果と比較を行った。これらの項目では
 「この方はどこに住んでいますか?」という質問文に対して「1 
 自分と同居している」~「6 片道3時間以上のところ」という時
 間距離でたずねている。高齢者からみた子どもとの居住関係につい
 て、平成10年国民生活基礎調査との比較を行った(資料5)。後
 者は世帯員ベースの集計であるから厳密な比較はできないものの、
 「歩いていけるところ」までの分布が大きく違わないことは、この
 項目の妥当性は低くないことをうかがわせる。配布資料には含まな
 かったが、1993年第1回全国家庭動向調査との比較(どちらも回答
 者ベース)を有配偶女性回答者について行ったところ、両者は選択
 肢区分が若干異なるものの、結果は大きく異ならないことが判明し
 た。これらから居住関係の項目自体については大きな問題はないも
 のと思われる。
 この点について、時間距離でたずねるのと国民生活基礎調査のよう
 に地理的区分でたずねるのとどちらがよいのかという質問がフロア
 から出された。後者は地域による違いが大きく直接の比較が難しい
 ことから前者のほうが望ましいだろうという意見、NFR98のカテ
 ゴリ区分は面積上の配慮からなされた面もあるという指摘などが提
 示された。
 きょうだいとの同別居(問26付問2)については比較可能な他の
 調査が見当たらないことから今回は詳しい検討は行わなかったが、
 きょうだいについてのみ時間距離ではなく「同別居」でたずねてい
 るのは、紙面の節約以上の積極的理由があるのかどうか疑問に思わ
 れる。
 
 議論
 フロアから様々な意見を出していただいた。
 1について、石原会長から、NFR98が世帯とは必ずしも重ならな
 い「家族」の広がりを捉えることに大きな目的が置かれていたこと
 を踏まえると、世帯表ではなく家族表(JGSSで採用したようなも
 の)を設けることで、第1報告の西野会員の報告で指摘されたよう
 な「家族認知」に踏み込んだ調査票設計が同時に可能になるのでは
 ないかという大きな問題が提起された。レイアウト上は別刷りのフ
 ェイスシートにすることもできるという指摘、仮に世帯表を設けた
 場合は特定親族についてたずねる項目との内容重複が生じないよう
 に気をつける必要があるという指摘、予備調査を行ってみて家族表
 をうまく用いることができるかどうか点検すべきだという指摘、ス
 テップファミリーなどを的確に把握できるような世帯表を作るべき
 であるが「普通の家族」という特定の家族イメージを調査が押し付
 けるようになっても困る、という指摘などが出された。
 これらを踏まえて8月末を目処にJGSSとの結果比較や世帯表(家
 族表)の案作りを報告者が中心に進めてはどうかという提案が出さ
 れた。
 これらに関連して、配偶者の離死別経験まではNFR98で把握でき
 ないことは項目改善の余地があるという指摘が出された。
 
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   4.事務局からのお知らせ
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ご希望の方に、第5回研究会の報告で用いられたレジュメを、添付ファイルにて
お送りすることができます。
 西野理子会員報告資料:報告レジュメ(ワード文書、84KB)
 田渕六郎会員報告資料:報告資料(LZHファイル、376KB)
 ご希望の方は、「第5回研究会の報告資料を希望」と明記の上、下記までメールに
てお申し込みください。
 mnishino@toyonet.toyo.ac.jp (98検討研究会世話人 西野理子・東洋大学)
なお、上記の資料の一部のみご希望の場合は、その旨をあわせてお知らせください。
                         
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   5.次回・次々回研究会のお知らせ
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 次回(第6回)研究会
 日時:7月27日(土) 午後1:00~5:00
 場所:慶應義塾大学三田キャンパス1号館132教室
 報告:野沢慎司(明治学院大学)
    平沢和司(北海道大学)
 
 次々回(第7回)研究会
 日時:8月31日(土) 午後1:00~4:00
 場所:慶應義塾大学三田キャンパス1号館132教室
 研究会活動の成果をNFR03に向けての提言としてまとめます。
  事前にメールにて案を会員の皆様に提示し、研究会の場にて議論する予定です。
 
報告内容については、おってML上で連絡がきます。
この研究会での活動も、残すところ2回となりました。
多くの会員の方のご参加と活発な議論を期待しております。
 
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